【中国の民法体系】


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Q1 中国には民法典は制定されていますか?

A1 民法はいまだ法典化はされてはいません。ご説明しましょう。憲法などの基本法とは違い、民法はまだ法典化されていません。

改革開放以来、経済発展とともに、目覚ましいスピードで立法活動が展開されました。現在まで、中国の特色のある社会主義法律体系が既に確立されたといえます。

各法律領域からみれば憲法、刑法、刑事訴訟法、民事訴訟法、行政訴訟法などの基本法は既に成文法典に制定されましたが、民法はいまだに法典化されていません。


民法は法典化されているの?したがって、改革開放と社会主義市場経済の発展に適応しながら、グローバル社会にも対応できる現代的民法典を制定することは、中国が直面している重要な立法課題となっています。



Q2 歴史的にみて民法典が制定されたことはなかったのですか?

A2 いえ。実は、1930年に当時の中華民国が民法典を制定しています。この民法典は、ドイツ、日本及びスイスの民法典を参考にして、総則、債権、物権、親族、相続の5編から構成され、全部で29章1225ヵ条です。じゃあ中国は今まで民法典がなかったの?
しかし、1949年に中華人民共和国が成立した際、国民党政府時期のすべての法律を廃除し、社会主義的な民法典の起草作業を行いました。ところが、反右派闘争および文化大革命の影響によって、民法典の制定は完全に中断されたのです。

改革開放後、文化大革命の誤りを正し、改革開放路線を打ち出し、商品の生産と交換を発展させよう、という政策が樹立されました。そのため、1982年に民法典の草案を起草しました。しかし、当時、経済体制の改革が始まったばかりであるため、社会生活の中で多様な新しい事情や問題が発生してきて、各種の経済関係が複雑であり、かつ、変動しつつあったことに鑑み、立法機関は短期間に完全な民法典を制定するのが不可能であると認識されました。

いえいえ、中華民国時代に民法典が制定されたことがあるんですよ。 そのため、立法機関は民法典の制定を待たず、まず単行法を先行させる方針に転換しました。例えば、婚姻法、経済契約法、渉外経済契約法、相続法、特許法、商標法などの単行法が相次いで制定されました。さらに、民事法律の基本原則と基本制度を規範するため、1986年に「民法通則」が制定されました。




Q3 「民法通則」の内容について教えてください。

A3 「民法通則」は、全部で9章156ヵ条からなっています。民法通則はどんな内容にゃの???
全部で9章、156条からなっています。
第1章は基本原則、第2章は公民、第3章は法人、第4章は民事法律行為及び代理、第5章は民事権利、第6章は民事責任、第7章は訴訟の時効、第8章は渉外民事関係法律の適用、第9章は附則となっています。



Q4 「民法通則」の特色について教えてください。

A4 「民法通則」は民法典ではなく「通則」と称されます。民法通則は「通則」って言われるんだって。民法通則は大陸法系、旧ソ連や東欧社会主義国家の民法典の構成とは異なるんです。
①正式な民法典と比べれば、臨時性・中間性を持っています。
②民法通則は大陸法系の民法典の構成と異なり、旧ソ連、東欧社会主義国家の民法典の構成とも異なります。
③具体的内容からみれば、「民法通則」は民法典総則の内容を包含していますが、総則に止まることなく、伝統民法典の物権法、債権法、親族法の内容も盛り込まれています。しかし、「民法通則」は物権法、債権法、親族法の基本原理と基本制度のみを規定しています。物権法、契約法、婚姻法、相続法などの法律がそれぞれに制定されました。



Q5 中国の契約法の歴史的変遷について教えてください。

A5 契約三法と呼ばれる「経済契約法」、「渉外経済契約法」、「技術契約法」がかつてありましたが、現在は廃止され「契約法」が制定されています。詳しく説明しますね。

中国にとって最初の社会主義契約法は、1981年の「経済契約法」でした。経済契約とは、旧ソ連から継受された法概念で、社会主義公有制組織の間で国家計画の実現を目的として締結される契約を指します。国家の経済計画と直接関連しない通常の民事契約とは原理的に区別されました。改革開放後、渉外経済の発展に伴って、1985年に「渉外経済契約法」、1987年に「技術契約法」が相次いで制定されました。そのため、1980年代中国では、「経済契約法」、「渉外経済契約法」、「技術契約法」の三つの契約法が存在していました中国の契約法の歴史的変遷についてはどうなっているのじゃ?1980年代には3つの法律がありましたが、1999年に契約法が制定されたため、3つの法律は廃止されました。
しかし、この三つの契約法は、制定された時期や規律対象の違いから、内容の重複、相互間の矛盾、契約総則に当たる規定の不足などの問題が存在していました。そこで、市場経済体制に応じて、契約に関する法制度を統一するために、1999年に「契約法」が制定されました。同時に「経済契約法」、「渉外経済契約法」、「技術契約法」が廃止されました。



Q6 「契約法」の内容について教えてください。

A6 「契約法」は、総則、各則をあわせ、全23章428ヵ条から構成されています。契約法は全部で23章、428条から構成されています。
①「契約法」総則
総則は一般原則、契約の締結、効力、履行、変更・譲渡、権利義務の終了、違約責任、その他の規定の8章129ヵ条からなります。その特徴的な規定には、以下のようなものがあります。
例えば、契約は申込と承諾の一致により成立するとし、それぞれについて詳細な規定を設けました(13条~31条)。契約締結の過程において相手方に損害を与えた場合に、損害賠償責任を負わせるいわゆる契約締結上の過失制度を取り入れました(42条)。債権譲渡は債務者への通知をもって行なわれ(80条)、契約上の義務の譲渡には債権者の同意が必要とされます(84条)。債務不履行責任には、現実の履行、補修措置、損害賠償、違約金などの給付があり、不可抗力による場合はその限りで免責されます(117条)。
②「契約法」各則契約法には総則と各則があるのね~
各則は、15種類の典型的な契約を定めています。
つまり、売買、電気・ガス・スチーム供給、贈与、金銭消費貸借、賃貸借、ファイナンス・リース、請負、建設プロジェクト、運送、技術(開発、移転、コンサルタント・サービス)、寄託、倉庫、委託、問屋、仲介の15種類です。



Q7 「契約法」の特徴について教えてください。

A7 大陸法系の特徴と英米法系の特徴に分けて説明しましょう。

①大陸法系の特徴
全体からみれば、中国の契約法は大陸法系に属しているといえます。
例えば、誠実信用原則(6条)、同時履行の抗弁権(66条)、不安の抗弁権(68条、69条)、債権者代位権(73条)、債権者取消権(74条、75条)、供託制度(101条~104条)、履行請求権(107条)などの大陸法系の制度が導入されました。

②英米法系の特徴
一方、少数ではありますが、英米法や国際統一売買法から導入された規定も見られます。
例えば、法定代理人の越権による契約の効力(50条)、付随義務(60条2項)、契約終了後の義務(92条)、相手方の違約が予想される場合の履行拒絶権・解除権(94条2項)、契約責任について過失責任ではなく厳格責任原則を採用したこと(107条)などです。中国の契約法は大陸法の影響が大きいのね~契約法は大陸法と英米法の特徴を持っているのですよ。



Q8 物権を規律する法律を教えてください。

A8 「物権法」ですね。2007年に成立しています。
では、「物権法」の制定についてお話しましょう。中国の物権法は2007年に成立しています。
中国の民事立法は、市場経済体制の導入に伴い、まず財産の流通に関する契約法を中心に整備が進んでいました。しかし、財産の流通を規律する論理的前提として、何が財産として保護され取引の対象となるのかが明確に規律されなければなりません。そのため、物権法の起草が1998年から始まりました。
そして、20年間をかけて、中国物権法はついに2007年3月16日に全人代で可決されたのです。じゃあ物権法をひも解いてみますか。



Q9 「物権法」はどういう構成になっていますか?

A9 はい。2007年10月1日に施行された中国物権法は、開けたら5つ出てきた!

①総則
②所有権
③用益物権
④担保物権
⑤占有

の5編、全247ヵ条から構成されています。それぞれ個別にみていきましょうね。中国の物権法は全部で247条から構成されています。



Q10 物権法「総則」について教えてください。

A10 第1編「総則」は、基本原則、物権の設定・変更・譲渡及び消滅、動産の引渡し及び物権の保護について定めています。

基本原則として、すべての権利主体の有する物権は平等に法律の保護を受け(4条)、物権の取得及びその行使は公共の利益と他人の合法的権益を侵害してはならない(7条)と定めたほか、物権変動について事実上「公信の原則」を採用することとしました。最初は「総則」をどうぞ。物権行為は物権変動の効力発生要件となっています。
すなわち、不動産に関する物権の変動には登記が必要とされ、動産に関する物権の変動には引渡しが必要とされました(9条、23条)。物権行為は、物権変動の効力発生要件となっているわけです。






Q11 物権法「所有権」について教えてください。

A11 第2編「所有権」では、土地・建物の収用・徴用の規則及び各所有権の対象という一般規定と建物の区分所有権について定めるほか、相隣関係、共有及び即時取得等の特別な所有権取得の規定も設けています。

所有権の対象が限定されていることは、中国物権法の特徴の一つです。特に土地所有権は、国家所有と集団所有に限られており、企業法人については、その有する不動産と動産に対し法律、行政法規及び定款に従い「占有、使用、収益および処分の権利」を有し(68条)、私人については、もっぱら自然人の生活や生産活動にかかる不動産・動産に対する所有権を明定するほか(64条)、その「合法的貯蓄、投資及びその収益」が法律の保護を受ける(65条)という規定にとどまっています。

「所有権」という表現が慎重に回避されている理由は定かではありませんが、国家による公益的理由に基づく回収権留保を強く意識したためと考えられます。 次は「所有権」なのね~中国物権法の特徴のひとつとして、所有権の対象が限定されていることが挙げられます。



Q12 物権法「用益物権」について教えてください。

A12 はい。第3編「用益物権」では、一般規定として、自然資源について有償使用の制度を採用することを定め、具体的な用益物権として、土地請負経営権、建設用地使用権、宅地使用権と地役権を定めています。

土地請負経営権は中国的特色のある制度ですから、ここでちょっと紹介します。
土地請負経営権については、請負期間及び期間満了後の自動的な継続を認めており(126条)、事実上、農業用地の永久的使用を認めているといっても過言ではありません。また、土地請負経営権の下請、交換、譲渡等も認められましたが、その土地が農業用である場合に限定されており、許可を得ずに請負地を非農業用の建設用地にすることはできません(128条)。3番目は「用益物権」!土地請負経営権は、中国ならではの制度です。



Q13 物権法「担保物権」について教えてください。

A13 物権法成立前に、既に人的担保(保証)と物的担保を含む「担保法」が1995年6月30日に制定されています。そこで、第4編「担保物権」部分の規定が、担保法の諸規定の内容と抵触する場合には、物権法の規定を適用するものとしました(178条)。4番目は「担保物件」~!物権法ができる前に、担保法が1995年に制定されています。



Q14 物権法「占有」について教えてください。

A14 第5編「占有」では、占有訴権が定められています。その際、占有物を毀損、滅失した場合に、善意の占有者はそれによって生じた保険金、賠償金または補償金を権利者に返還するだけでよいのですが、悪意の占有者は、損害賠償義務を負います(244条)。最後は「占有」だにゃ!占有では占有訴権が定められています。
なお、占有権が侵害された場合、不法占拠された日から1年間以内に占有者が現物の返還請求権を行使しなければ、請求権は時効消滅する(245条2項)と規定しています。



Q15 「物権法」の特徴について教えてください。

A15 はい。物権法の特徴としては、以下のとおりです。
(1)全国的に注目されている問題の解決物権法の特徴は主に3つ挙げられます。
国民の意見を条文に反映させること。全国的に注目されている問題、例えば、区分所有の建物の敷地内にある車庫、駐車場所の帰属問題、住宅用建設用地使用権及び土地請負経営権の延期等の問題について、明文規定を設けて国民の期待に応えました。

(2)国有財産保護の強化
財産帰属の不明確さにより生じる国有財産の流失を防ぐために、国有財産の範囲を明確かつ具体的に規定しました。また、国有資産に損失を及ぼした者に法的責任を追及規定も設けました。

(3)中国独自の物権の創設
中国では土地の私有制を否定し、特別な土地使用権を定めています。したがって、土地使用権としての土地請負経営権、建設用地使用権、宅地使用権は、特殊な物権として、中国の国内事情に応じ、物権法によってこれらを物権の一種として認めたものです。何が入ってるのかにゃ?



Q16 知的財産に関する法体系について教えてください。

A16 中国「民法通則」の規定によれば、知的財産権は民事権利の一種に属します。
具体的には、「民法通則」の第5章「民事権利」の第3節「知的財産権」において、知的財産権に関する4ヵ条の条文(94条~97条)を定めています。この原則的規定以外、知的財産に関する法体系は、以下の主な法律から構成されます。知的さは負けにゃいよ!知的財産権は民事権利のひとつに属します。
①商標法は1982年に公布、1983年に施行、1993年、1995年及び2001年に3回改正
②特許法は1984年に公布施行、1993年及び2000年に2回改正
③著作権法は1990年に公布、1991年6月1日より施行、2001年10月27日に改正 されています。



Q17 日本の不法行為法に相当する法はありますか?

A17 はい。権利侵害責任法についてご説明しましょう。

中国では製造物の責任を規範するために、1993年に「製品責任法」が制定されました。そして、2009年にこの「製品責任法」の基本原則に則りながら、リコール制度の強制、悪意的な製造物責任に対する懲罰を強化して「権利侵害責任法」(日本の不法行為法に相当)が制定されました。中国では、権利侵害責任法というものがそれに当たります。日本の不法行為に当たるものは?
「権利侵害責任法」は全92条の条項からなり、従来から議論の対象になっていた精神賠償責任について法律レベルで初めてこれを認めたほか、外商投資企業にとって関心の高い製造物責任(PL)、製品のリコール制度、医療事故、環境汚染、インターネット権利侵害などについて具体化し、外国企業および外商投資企業が、中国において法令を遵守すると同時に受けていた法令による保護について新しい規制が設けられています。



Q18 中国の家族法について教えてください。

A18 中国「民法通則」103~105条は、婚姻、家庭などに関する規定を定めています。それ以外には婚姻法、継承法などの法律があります。

1 婚姻法
1950年に制定した「婚姻法」は、共産党政権が制定した最初の法律です。1980年に新しい「婚姻法」が制定され、2001年に改正されました。

家族に関する法律はあるの?中国の婚姻法は、婚姻自由、男女平等、一夫一妻、女性権益の保護、計画出産の原則を導入しました。婚姻法の下で、「婚姻登記管理条例」が1994年に国務院により制定されました(日本の政令に相当)。そして、2003年に新しい「婚姻登記管理条例」が定められました。

2 家族法
中国の家族法は、継承法(相続法)や養子縁組法などの法律から構成されます。継承法(相続法)は1985年に制定されました。養子縁組法は1991年に制定され、1998年に改正されました。民法通則には婚姻法、家族法などの規定があります。