A1 中国の法体系は、法分野からみれば、憲法と憲法関連法、民法商法、行政法、経済法、社会法、刑法、訴訟および非訴訟手続法の7つの法律部類から構成されていますが、立法の主体および法の効力からみれば、法律(狭義的意味)、行政法規、地方性法規、部門規則、地方人民政府規則などの「法」から構成されています。
現在の中国では、全国人民代表大会とその常務委員会が制定した法律は200件以上、国務院が制定した行政法規は600件以上、地方人民代表大会が制定した地方的法規(は8000件以上、国務院の各部委員会・直属機構が制定した部門規章と省・自治区・直轄市・比較的大きな市が制定した地方規章は20000件以上にも達しています。
この莫大な法体系を理解するため、今回は中国の法体系と立法制度を紹介・分析したいと思います。
A2 中国では、人民代表大会及びその常務委員会は立法機関ですが、その他の行政機関や司法機関も一定の立法権を有します。すなわち、図1(Q1参照)のような「一元多重立法体制」を実施しています。
図1(Q1参照)のように中国での実定法体系は、憲法を頂点として、その下に法律(基本的法律と一般的法律)、行政法規、地方的法規、自治条例及び単行条例、規章(行政規則)からなっています。
A4 狭義の意味の法律は、全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会が制定したものです(立法法7条1項)。法律には基本的法律と一般的法律があります。
基本的法律は全国人民代表大会が制定し、一般的法律は全国人民代表大会およびその常務委員会がこれを制定します。
下記の事項については、法律によって制定しなければなりません。
・国家主権の事項
・各級人民代表大会、人民政府、人民法院及び人民検察院の設立、組織及び職権
・民族地域自治制度、特別行政区制度及び基層大衆自治制度
・犯罪及び刑罰
・公民の政治的権利の剥奪及び人身の自由の制限に対する強制措置及び処罰
・非国有財産に対する収用
・民事基本制度
・基本経済制度並びに財政、税収、税関、金融及び対外貿易の基本制度
・訴訟及び仲裁制度
・全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会が必ず法律を制定すべきその他の事項(8条)
これらの事項について法律が制定されていない場合は、全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会は決定をし、国務院に授権し、必要に応じてその中の一部の事項についてまず行政法規を制定することができます。
ただし、犯罪及び刑罰、公民の政治的権利の剥奪及び人身の自由の制限に対する強制措置、刑罰及び司法制度等の事項を除きます(9条)。授権規定は、授権の目的及び範囲を明確にしなければなりません。被授権機関は、授権の目的及び範囲に厳格に従い当該権限を行使しなければなりません。被授権機関は、当該権限をその他の機関に再授権してはなりません。
そして、授権立法事項については実践による検証を経て、法律を制定する条件が成熟したときに、全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会が遅滞なく法律を制定します。法律を制定した後に、これに対応する立法事項の授権は、終了します(10条)。
A5 行政法規は、国務院が憲法および法律に基づきこれを制定したものであり、日本の「政令」に相当するものです。法律の規定を執行するため行政法規を制定することに属する事項について、国務院が行政法規を制定することができます。
また、全国人民代表大会及びその全国人民代表大会常務委員会が法律を制定すべき事項について、国務院が全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会の授権決定に基づき制定する行政法規については、実践による検査を経て、法律制定の条件が成熟したとき、国務院は、遅滞なく全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会に法律を制定するよう要請しなければなりません(56条)。
行政法規については国務院が起草します。国務院の関係部門は、行政法規を制定する必要があると認める場合においては、国務院に対しその旨を報告し起草を要請しなければなりません(57条)。行政法規の形式は「条例」、「規定」、「弁法」等と表記されます。例えば、「中外合資経営企業法実施条例」等があります。
A6 地方性法規は、省・自治区・直轄市、比較的大きな市、の人民代表大会又はその常務委員会が制定したものです。
「比較的大きな市」とは、省・自治区政府の所在地である市、経済特区所在地の市および国務院の承認された市をいいます(63条)。例えば、浙江省の杭州市や寧波市等です。法律、行政法規の規定を執行するため、当該行政区域の実情に応じて具体的規定をする必要のある事項、または地方性事務に属し地方性法規を制定する必要のある事項について、地方性法規を制定することができます(64条)。
経済特別区所在地の省又は市の人民代表大会及びその常務委員会は全国人民代表大会の授権決定に基づき法規を制定し、経済特別区の範囲内で実施します(65条)。
A7 中国では、漢族以外の少数民族が集中的に居住している地域で区域自治が実行され、自治機関の設立や自治権の行使がなされています。民族自治地方の人民代表大会は、地元の政治、経済、文化の特徴に基づき、自治条例と単行条例を制定する権限を有しています。
自治条例はその地方の民族区域自治に関する基本的問題を規定し、単行条例はその地方の民族区域自治に関する具体的事項を規定します。自治条例・単行条例は、国の法律と政策に対しある程度改めて規定することができます。
ただし、法律又は行政法規の基本原則に違背してはなりませんし、憲法、民族区域自治法、その他の関係する法律及び行政法規による民族自治地方に関する規定について特別の定めをしてはなりません。
また、自治区の自治条例と単行条例は全人代常務委に報告するべきで、その承認を得て発効します。自治州、自治県の自治条例と個々の条例は省・自治区人民代表大会常務委に報告するべきで、その承認を得て発効し、そして全人代常務委に報告すべきです(66・67条) 。
A8 国務院の各部門、委員会、中国人民銀行、審計署及び行政管理職責を有する直属機構(日本の内閣府の各省庁に相当する)は、法律並びに国務院の行政法規、決定及び命令に基づき当該部門の権限範囲内において規則(日本の「省令」に相当する)を制定することができます。
部門規則の規定する事項は、法律又は国務院の行政法規、決定及び命令を執行するものに限ります(71条)。また、二以上の国務院の部門の職権範囲に係わる事項については、国務院に行政規則を制定し、又は国務院の関係部門が連合して規則を制定するよう要請しなければなりません(72条) 。
A9 地方規則(地方政府規章)は、①省・自治区・直轄市、②比較的大きな市、の人民政府が法律、行政法規および当該省・自治区・直轄市等の「地方性法規」に基づいて制定したものです。
地方規則は、法律、行政法規又は直轄市の地方性法規に基づき規則を制定する必要がある事項、または当該行政区域の具体的行政管理に属する事項について規定することができます(73条)。
A10 わかりました。順に説明しますね。
1.憲法の効力
憲法は最高の法的効力を有し、一切の法律、行政法規、地方性法規、自治条例及び単行条例並びに規則は、いずれも憲法と抵触してはなりません(78条)。
2.法律の効力
法律の効力は、行政法規、地方性法規及び規則に優越します。
3.行政法規の効力
行政法規の効力は、地方性法規及び規則に優越します。
4.地方性法規の効力
地方性法規の効力は、当該級及び下級の地方性規則に優越します。経済特別区の法規が授権に基づき法律、行政法規又は地方性法規について特別の定めを認める場合には、当該経済特別区において経済特別区の法規の規定を適用します。
5.自治条例・単行条例の効力
自治条例及び単行条例が法律、行政法規又は地方性法規について特別の定めを認める場合においては、当該自治地方において自治条例及び単行条例の規定を適用します。
6.規則の効力
部門規則相互及び部門規則と地方政府規則とは、同等の効力を有し、各自の権限範囲内で実施します。省及び自治区の人民政府の制定する規則の効力は、当該行政区域内の比較的大きな市の人民政府に制定する規則に優越します。
地方性法規と規則との間に不一致がある場合には、関係機関が次の各号所定の権限により裁決をします。
同一の機関の制定した新たな一般規定と古い特別規定とが一致しない場合においては、制定機関が裁決します。
地方性法規と部門規則との間において同一の事項に対する規定が一致せず、適用すべき規定を確定することができない場合においては、国務院が意見を提出します。国務院は、地方性法規を適用すべきと認める場合においては、当該地方において地方性法規の規定を適用する旨を決定しなければなりません。部門規則を適用すべきと認める場合においては、全国人民代表大会常務委員会に対し裁決を要請しなければなりません。
部門規則相互間又は部門規則と地方政府規則との間において同一の事実に対する規定が一致しない場合においては、国務院が裁決します。
A11 法律の解釈問題に関しては、全人代常務委員会の解釈が「立法解釈」に属し、最高人民法院の解釈が「司法解釈」に属します。
1.立法解釈
法律解釈権は、全国人民体表大会常務委員会に属します。法律の規定について更に具体的意義を明確にする必要のあるとき、または法律が制定された後に、新しい状況への法律適用の根拠を明確にする必要のあるとき、全国人民代表大会常務委員会が法律を解釈することができます。
2.司法解釈
法律には抽象的規定が多いので、裁判・検察の活動での法律適用のために、最高法院・最高検察院は法律に関する解釈を作成し、下級の法院・検察院の裁判・検察の活動を指導します。このような解釈は、「司法解釈」と呼ばれます。
司法解釈とは、最高裁(最高人民法院)が、法律の実施過程で生じた法律問題において、いかに具体的に対応するかについて、一般的な法的効力の解釈を示すことをいいます。
A12 法令の登録と法令の取り消しについてご説明しましょう。
1.法令の登録
国民の権利を制限・剥奪し、又は国民の義務を科する行政法規・地方的法規・自治条例・単行条例・部門的規則・地方的規則及び他の規制的書類は、公布後30日以内に関係機関に報告し、登録しなければなりません。
すなわち、
① 国務院の定める行政法規については全国人代常委会に、
② 省・自治区・直轄市の人代及びその常委会の制定する地方的法規については、全国人代常委会及び国務院に、「較大市」の人代及びその常委会の制定する地方的法規については、まず、省・自治区の人代常委会に提出・報告し、省・自治区の人代常委会が全国人代常委会及び国務院に、
③ 自治区又は自治県の制定する自治条例及び単行条例については、省、自治区及び直轄市の人代常委会が全国人代常委会及び国務院に、
④ 部門的規則及び地方政府規則については国務院に、地方政府的規則については同時に当該級の人代常委会に、「較大市」の政府の制定する規則については同時に省・自治区の人代常委会及び政府に、
⑤ 授権に基づき制定される法規については、授権決定の定める機関に、報告し、これを登録を受けなければなりません。(立法法第89条)
2.法令の取り消し
人代常委会は、一級下の人代とその常委会の決議、決定又は同級の政府の決定、命令を審査して、
① 法定の権限を越えて、国民・法人及びその他の組織の合法的な権利を制限し、剥奪し、又は国民・法人及びその他の組織に義務を科している場合、
② 法律法規と抵触する場合、
③ その他の不適当な状況があって、取り消しなければならないこと等の不適当な状況がある場合のいずれか一つがあると認める場合には、
これらを取り消すことができる。(監督法第30条)