【中国物権法 総則】


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Q1 中国で「物権法」が制定される経緯について教えてください。

A1 はい。では、まずその前提として市場経済体制が社会主義国家に導入されるに至った経緯をお話しますね。

伝統的なマルクス主義の理論からいえば、社会主義は公有制のもとで計画経済を、資本主義は私有制のもとで市場経済を基本とする社会制度とされてきました。中国は、1949年に社会主義国家として建国され、ソ連を参考にして中央集権的計画経済体制(国家の権力によって物財バランスに基づいて計画的に配分する体制)を導入したわけです。改革開放前の中国では、すべての生産、流通、消費(製品の配分)が中央政府または地方政府の権力によって統一的に計画され、国家所有または集団所有の企業や非営利組織(事業単位という)によって経営されていました。中国の物権法が制定される経緯を教えてください。まずは、市場経済体制が社会主義国家に導入されるに至った経緯をお話しますね。

その後、反右派闘争を契機とする法制建設停滞期、文革期の法制建設破壊期法を経て、さらに、改革開放によって、農村における生産請負責任制(家庭生産量請負責任制)の実施をはじめ、法律の許可される範囲における私営経済が認められ、経済体制は「計画経済体制」から徐々に自由化されます。

そして、1992年10月に開催された中国共産党第14回全国代表大会において「社会主義市場経済」が体制改革の目標として確立されました。1993年11月には、中国共産党第14期中央委員会第3回全体会議が開催され、中共中央「社会主義市場経済体制の確立に関する若干問題の決定」を公布します。この「決定」の中で、20世紀末までに「社会主義市場経済の法律体系」を確立すると要求しました。

さらに1993年3月の第8期全国人民代表大会第1回会議で、憲法15条の「計画経済を実行する」という規定を、「国家は社会主義市場経済を実行する」と改正し、市場経済体制が社会主義国家でも存立しうる制度として、正式に導入されることになったのです。



Q2 なるほど。では、物権法はどういう過程で成立したのでしょうか。

A2 はい。社会主義市場経済とは、社会主義公有制(国家所有制と集団所有制)を維持しながら、市場の価格調整メカニズムによって経済の資源を配分する体制(市場経済体制)を導入することです。しかし、市場経済体制は、私有制を基礎とする経済体制ですから、中国では、国家所有制と集団所有制の公有制以外、一定の範囲で私有制を認めざるを得ません。法律上では、1990年代以降「物権」という概念が導入されました。

そのため、憲法の改正によって「法律が定める範囲内の個人経済、私営経済などの非公有制経済は、社会主義的市場経済の重要な構成部分である。国は個人経済、私営経済などの非公有制経済の合法的権利および利益を保護する。国は非公有制経済の発展を奨励、支持およびリードし、非公有制経済に対して法にもとづいて監督と管理を実行する。」と規定しています。これに応じて、法律上は、1990年代以降「物権」という概念が導入されたのです。さらに、この「物権」に関する法律、つまり「物権法」の立法も1993年から始まりました。物権法が成立するまでに、いろいろな問題が出てきたのね。

しかし、社会主義国である中国では公有制を優先的に保護するか、あるいは公有制と私有制を平等的に保護するかというイデオロギーの問題、「物権法」は憲法の所有制に関する条文に違反するかという違憲問題、独立的な「物権法」を制定するか、あるいは統一的な「民法典」を制定するかという立法の技術的問題などの様々な問題が提起されました。そのため、「物権法」は、14年の年月、合計8回の全国人民代表大会及びその常務委員会の審議を経て、2007年3月16日の第10期全国人民代表大会第5回会議で採択されたわけです。



Q3 物権の概念についてご説明ください。

A3 物権法は「物権」に関する法律です。物権法にいう「物」とは、不動産と動産を含みます。物権法にいう「物」とは、不動産と動産を含むんですよ。
そして、法律で権利を物権の客体とすると定める場合、その規定に従います。
物権の概念ってどういうもの??
「物権」とは、権利者が特定物に対して、法に基づき享有する直接的な支配と排他的権利のことです。



Q4 物権の種類についてご説明ください。

A4 物権は所有権、用益物権及び担保物権を含みます。物権は所有権、用益物権及び担保物権を含みます。
さらに図1のように、所有権には占有権、使用権、収益権、処分権が、用益物権には土地経営請負権、建設用地使用権、宅地使用権、地役権が、担保物権には抵当権、質権、留置権が含まれます。物権の種類はこんなにあるんだね。


中国における物権の体系



Q5 「物権法」の基本原則、平等保護の原則についてご説明ください。

A5 上述のように、改革開放以降の中国では、国家所有と集団所有の財産以外、私人所有の財産も法律で認められています。憲法11条は、非公有制も保護すると定めていますが、公有制と非公有制の優先性という問題については、未だはっきり定めていません。つまり物権法では、各種類の物権の平等保護の原則を導入しています。
そのため、物権法は「国家は社会主義の市場経済を実施し、全市場の主体である平等な法的地位と権利発展を保障する。」、「国家、集団、私人の物権及びその他の権利者の物権は法律の保護を受け、如何なる組織や平等じゃなくしちゃおうっと個人もこれを犯してはならない。」と規定しています。

つまり、各種類の物権の平等保護の原則を導入しています。





Q6 物権法定主義について教えてください。

A6 「物権法定主義」とは、取引の安全のため、物権は法律で定められているもの以外、当事者が勝手に作りだしてはならないという原則です。「物権法」は「物権の種類と内容は、法律により規定する。」、「不動産物権の設定、変更、譲渡及び消滅は、法律の規定に従い登録しなければならない。動産物権の設定と譲渡は、法律の規定に従い引き渡さなければならない。」と規定しています。物権法定主義って何なの?取引の安全のため、物権は法律で定められているもの以外、当事者が勝手に作りだしてはならないという原則のことです。
つまり、中国の「物権法」は「物権法定主義」を採用しているわけです。



Q7 不動産物権の設定、変更、譲渡及び消滅の登録について教えてください。

A7 不動産物権の設定、変更、譲渡及び消滅は、法に基づく登録によって法的効力が生じます。(具体的には、不動産登録簿に記載時より、効力が生じます。)登録を経なければ、法的効力は生じません。但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りではありません。例えば、法によって国家の所有に属する自然資源の場合、所有権は登録しなくてもかまいません。

不動産物権の設定、変更、譲渡及び消滅は、法に基づく登録によって法的効力が生じます。また、不動産は、不動産の所在地を管轄する登録所により登録されます。国家は不動産に対して統一した登録制度を実施します。統一して登録する範囲、登録所と登録方法は、法律、行政法規により定めます(登録法定主義)。登録したんだにゃ~♪



Q8 登録機関の職責について教えてください。

A8 登録機関は以下の職責を履行しなければなりません。登録機関は4つの職責を履行しなくてはなりません。
① 申請人の提供した権利帰属証明及びその他の必要資料を審査する。
② 登録関連事項について申請人に問い尋ねる
③ 事実に即して、速やかに関連事項を登録する
④ 法律、行政法規に規定するその他の職責
登録機関は申請人に資料を補充するように求めることができ、また必要なときは実地調査をすることができるんですよね!!
登録を申請している不動産の関連状況につき、よりいっそうの証明が必要な場合は、登録機関は申請人に資料を補充するように求めることができます。必要なときは実地調査をすることができます。



Q9 登録機関の禁止行為について教えてください。

A9 登録機関は以下の行為をしてはなりません。これらは禁止行為なので、してはなりません!
① 不動産に対して評価を行うように要求する
② 年度検査等の名目で重複登録を行う
③ 登録の職責の範囲を超えたその他の行為
やっちゃだめ~!!





Q10 登録の効力について教えてください。

A10 
① 不動産物権の設定、変更、譲渡、消滅の発効
不動産物権の設定、変更、譲渡、消滅について、法律の規定に基づき登録しなければならない場合、不動産登録簿に記載した時から効力が発生します。登録の効力を先生に見せてあげましょう!わわっ!

② 契約効力に対する影響
当事者の間で不動産物権の設定、変更、譲渡、消滅に関する契約を締結した際、法律に別段の定めがある、または契約に別段の約定がある場合を除き、契約成立の時より効力が発生します。物権の登録を行わなくても、契約の効力に影響を与えません。



Q11 登録の種類について教えてください。

A11 上述の一般的登録以外、「物権法」には、特別な登録制度として更正登録、異議登録と予告登録制度があります。

① 更正登録
他にも種類がありますよ。更正登録とは、権利者、または利害関係者が不動産登録簿の記載する事項が誤っていると判断した場合、登録機関に更正登録を申請して、登録機関が登録内容の更正を行うことです。不動産登録簿の記載する権利者が書面にて更正に同意する場合、または登録の記載に確かに誤りがあることを証明する証拠がある場合、登録機関は更正登録をしなければなりません。(19条1項)


② 異議登録
利害関係人が更正登録を申し立てたが、不動産登録簿の記載する権利者が更正に同意しない場合は、利害関係人は異議登録を申請することができます。異議登録が行われると、登録簿に記載された物権は、登録の正確性に対する公信力を失うと同時に、第三者に登録の対抗力を主張することはできなくなります。登録機関が異議登録を認めた場合、申請人が異議登録の日より15日以内に訴えを起こさなければ、異議登録は効力を失います。異議登録が不当で、権利者に損害を与えたときは、権利者は申請者に対して損害賠償を請求することができます。(19条2項)ちなみに物権法には、特別な登録制度が3種類あるんですよ。
③ 予告登録
当事者が建物又はその他の不動産物権を売買する契約を締結する場合、将来物権を実現することを保障するために、約定に基づき登録機関に予告登録を申請することができます。
予告登録後、予告登録の権利者の同意を経ずに当該不動産を処分したときは、物権の効力は生じません。予告登録後、債権が消滅するか、または不動産登録を行うことができる日より3ヶ月以内に登録の申請を行わない場合、予告登録は失効します。



Q12 登録に誤りがあった場合の賠償責任について教えてください。

A12 
① 当事者の賠償責任
当事者が虚偽の材料を提供して登録を申請し、他人に損害を与えたときは、賠償責任を負わなければなりません。

② 登録機関の賠償責任
登録の誤りにより、他人に損害を与えたときは、登録機関は賠償責任を負わなければなりません。
登録機関は賠償を行った後、登録の誤りをもたらした当事者に対して、求償することができます。
登録が間違ってる~!!登録機関は賠償責任を負わなければなりませんね。



Q13 登録の費用について教えてください。

A13 不動産登録費用は件数に応じて受け取ります。不動産の面積、容積、または価額の割合によって受け取ってはなりません。登録の費用について教えてください…不動産登録費用は件数に応じて受け取ります。
具体的な徴収基準は、国務院の関連部門が価格主管部門と共同で規定します。



Q14 動産の引渡しについて教えてください。

A14 動産物権の設定と譲渡は、引渡し時より効力を生じます。但し、法律に別段の定めがある場合はこの限りではありません。例えば、動産物権の設定と譲渡までに、権利者が既に法に基づき当該動産を占有した場合、物権は法律行為の発効日より効力が生じます。動産物権の譲渡時、譲渡人が引き続き当該動産を占有すると双方が約定した場合、物権は約定の発効時より効力が生じます。
おにぎりいらんかね~!
船舶、航空機と自動車などの物権の設定、変更、譲渡及び消滅は、登録を経なければ、善意の第三者に対抗してはなりません。おにぎりは…いえ、動産は引渡し時より効力を生じるんですよ。

動産物権の設定および譲渡前に、第三者が法により当該動産を占有しているときは、引渡義務を負う者は、第三者に原物返還請求権を譲渡することを通じて引渡しに代替させることができます。



Q15 その他の物権の設定、変更、譲渡及び消滅について規定はありますか?

A15 上述の不動産の登録と動産の引渡しに関する規定は物権の設定、変更、譲渡及び消滅の一般的規定ですが、以下の場合、特別な規定があります。

(1)法律文書や徴収決定による物権の設定、変更、譲渡、消滅
 人民法院、仲裁委員会の法律文書または人民政府の徴収決定などにより、物権の設定、変更、譲渡または消滅を招くに至った場合、法律文書、または人民政府の徴収決定などにより発効日より効力が生じます。

(2)相続や遺贈による物権の設定、変更、譲渡、消滅
 相続または遺贈を受けることにより物権を取得した場合、相続若しくは遺贈の開始時より効力が生じます。

(3)合法的な事実行為による物権の設定、変更、譲渡、消滅
 合法的な家屋の建築、取り壊しなどの事実行為により物権を設定または消滅する場合、事実行為が成就した時より効力が生じます。

但し、以上の規定に基づき不動産物権を享受し、当該物権を処分する際は、他の法律に従って登録しなければならないと定める場合は、登録しなければ、物権の効力は生じません。その他は?



Q16 物権に対する保護手段には、どのようなものがあり、どのような請求が可能ですか?

A16
(1)和解、調停、仲裁、訴訟
 物権が侵害を受けた場合、権利者は和解、調停、仲裁、訴訟などの手段で解決することができます。

(2)権利の確認
 物権の帰属、内容により争議が生じた場合、利害関係者は権利の確認を請求することができます。

(3)現物返還の請求
 不動産または動産を権限なく占有する場合、権利者は現物の返還請求権を行使することができます。

(4)妨害排除または妨害予防の請求
 物権の実現を妨害する、若しくは物権の実現を妨害する恐れのある場合、権利者は妨害排除請求権利または妨害予防請求権を行使することができます。

(5)修理、建替え、交換、現状回復の請求
 不動産または動産の毀損をもたらした場合、権利者は、修理、建替え、交換または現状の回復を請求することができます。

(6)損害賠償の請求
 物権を侵害し、権利者に損害をもたらした場合、権利者は損害賠償を請求することができ、その他民事責任を負うよう請求することもできます。おにぎり保護しなきゃ!!

以上の物権保護の方法は、単独で適用することができますが、権利を侵害された状況に基づき一括して適用することもできます。また、物権の侵害は、民事責任を負う以外、行政管理の規定に違反する場合、法に基づき行政責任を負わなければなりません。犯罪を構成した場合、法に基づき刑事責任を追及します。