【中国権利侵害責任法 各論(1)】


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Q1 権利侵害責任法では製造物責任について、どのように規定されていますか?

A1 製造物責任については特別な位置づけです。権利侵害責任法の第五章から第十一章までは、各論として、一般的な過失原則という帰責原則を適用せず、特別な権利侵害責任を定めています。

この特別な権利侵害責任は、具体的に、製造物の責任、医療損害の責任、環境汚染の責任、自動車交通事故の責任、高度危険の責任、飼育動物損害の責任、物件の責任の7種類を含みます。お尋ねの製造物責任について説明していきましょうね。これから素敵なものを作るのだ!製造物責任についてはご存知ですか?
中国では、製造物により権利侵害が生じる場合、その侵害行為の責任は『消費者権益保護法』(1993年制定、2000年修正)、『製品質量法』(2000年)、『食品安全法』(2009年)などに定めています。

これらの特別法に対して、権利侵害責任法の第五章は、製造物による権利侵害の責任について、製造者、販売者、運送業者・倉庫業者などの流通業者を権利侵害責任者として、それぞれの権利侵害責任を定めています。さらに、製品の欠陥により他人の人身及び財産の安全に危害が及んだ場合の事前的な予防措置、および権利が侵害された後の事後的な救済措置を規定しています。



Q2 製造者、販売者など各主体によって責任が定められているようですが、
  まず、製造者の権利侵害責任について教えてください。

A2 ご説明しましょう。
1 製造者の「無過失責任」
製品に欠陥が存在したことにより他人に損害を与えた場合、製造者は権利侵害責任を負わなければなりません。この意味で、製造者の権利侵害責任は「無過失責任」(中国では、「厳格責任」ともいわれる)の原則を適用します。
すなわち、製造者の故意や過失の有無を問わず、①製品の欠陥の存在、②他人の損害の結果、③製品欠陥と他人損害の因果関係の三つの要件が満たされる場合、製造者は権利侵害責任を負わなければなりません。壊れちゃった!!製造者の権利侵害責任には、①製造者の無過失責任、②製品の欠陥、③製造者の免責自由、の3つがあります。
2 製品の「欠陥」の意味
ここでいう製品の「欠陥」は、製品に人身及び他人の財産の安全に危害を及ぼす不合理な危険が存在する、または製品の品質に関する国家基準、業界基準がある場合、当該基準に合致しないことを指します。

3 製造者の免責事由
権利侵害責任法第三章は、被害者の過失・故意、第三者の原因、不可抗力、正当防衛、緊急避難などの権利侵害責任の免責事由を定めています。これらの免責事由があれば、製造者の責任を免除することができます。そのほか、『製品品質法』は以下のように、製造者の特別な免責事由を規定しています。

すなわち、製造者は、①製品を流通ルートに乗せていなかったこと、②製品を流通ルートに乗せた際、損害の原因となる欠陥が存在しなかったこと、③製品を流通ルートに乗せた時点の科学技術レベルで欠陥を発見することができなかったこと、のいずれかにあてはまることを立証することができる場合、その責任を免除することになります。



Q3 次に、販売者の権利侵害責任について教えてください。

A3 ご説明しましょう。
1 販売者過失の場合の権利侵害責任
販売者の過失により製品に欠陥を発生させ、他人に損害を与えた場合、販売者は権利侵害責任を負わなければなりません。製造者の無過失責任に対して、販売者の権利侵害責任は「過失責任」の原則を適用します。

すなわち、①製品の欠陥の存在、②他人の損害の結果、③製品欠陥と他人損害の因果関係、④販売者の過失、⑤販売者過失と製品欠陥の因果関係の五つの要件がすべて満たされる場合、販売者は権利侵害責任を負います。この場合、被害者は販売者に賠償を請求する際、販売者の過失を立証しなければなりません。
2 製造者・供給者不明の場合の販売者の権利侵害責任でも売っちゃうのだ!買った人に損害を与えても知りませんよ…。
上記の販売者の過失責任によって、販売者の過失がない場合、販売者は権利侵害責任を負いません。ただし、販売者が欠陥製品の製造者や供給者が明示できない場合、販売者は権利侵害責任を負わなければなりません。



Q4 製造者と販売者、これは連帯責任になるのでしょうか?

A4 そうですね。連帯責任の関係にあります。以下、ご説明しますね。

①被権利侵害者の賠償請求権
製品に欠陥が存在したことにより損害が生じた場合、権利被侵害者は製品の製造者に対して賠償を請求することができます。また製品の販売者に対しても賠償を請求することができます。

②販売者の求償権
製品の欠陥が製造者によって生じたものである場合、販売者は賠償を行った後、製造者に対して返還を求める権利を有します。

③製造者の求償権
販売者の過失により製品に欠陥が生じた場合、製造者は賠償を行った後、販売者に対して返還を求める権利を有します。売れにゃいから帰る・・・(T_T)



Q5 流通業者の責任について教えてください。

A5 運送業者、倉庫業者等の第三者の過失によって製品に欠陥が生じ他人に損害を与えた場合、製品の製造者、販売者は賠償を行った後、第三者に対して返還を求めることができます。
ここの流通業者の責任も過失責任です。そして、流通業者は、製品の製造者、販売者との連帯責任を有しています。でも流通させるんだにゃ!



Q6 製品欠陥により危険が発生した場合、製造者等は、リコールなどの予防措置を講ずる
  必要がありますか?

A6 製品の欠陥により他人の人身及び財産の安全に危害が及んだ場合、製品の製造者や販売者は欠陥製品でしたね~!(爆)、必要な予防措置を行わなければなりません。具体的には、以下の措置を含みます。

①妨害の排除、危険の除去等の予防措置
製品の欠陥により他人の人身及び財産の安全に危害が及んだ場合、被権利侵害者は製造者、販売者に対して妨害の排除、危険の除去等の権利侵害責任を負うことを請求する権利を有します。

②警告、リコール等の予防措置
製品が流通に投入された後に欠陥の存在が発見された場合、製造者、販売者は速やかに警告、リコール等の救済措置を行わなければなりません。速やかに救済措置を行わなかった、または救済措置が不十分であったために損害が生じた場合は、権利侵害責任を負わなければなりません。



Q7 中国法には、アメリカのような懲罰的賠償責任は存在しますか?

A7 製品に欠陥が存在することを明らかに知りながらも製造や販売を行ったことにより、他人を死亡させるか、またはその健康に重大な損害をもたらした場合、被権利侵害者は相応の懲罰的賠償を請求する権利を有します。これは、悪質な製造者や販売者に対する懲罰的賠償の規定です。まずは、製造者や販売者の「悪質」を立証しなければなりません。この懲罰的賠償責任は、上述の製造者の「無過失責任」や販売者の「過失責任」と異なります。権利被害者は、製造者や販売者が製造物に欠陥があることを明らかに知っていたこと(欠陥隠しの故意)を立証しなければなりません。懲罰的賠償しますからね!!
そして、懲罰的賠償の金額について、権利侵害責任法は、「相応」の賠償と定めているのみで、具体的な算定基準が示されていません。実際には各特別法の規定により賠償の金額を確定します。例えば、『消費者権益保護法』は製品価格の2倍(49条)、『食品安全法』は食品価格の10倍(96条2項)を上限として懲罰的損害賠償が認められています。



Q8 医療過誤については、どのように規定されていますか?

A8 中国では、2002年9月に『医療事故処理条例』(中国の「行政法規」であり、日本の政令に相当する)が制定され、医療事故や医療事故による損害の責任などを定めています。権利侵害責任法第七章は、特別な権利侵害責任として、一般的な医療損害の責任を規定しています。すなわち、『医療事故処理条例』は医療事故による損害の責任に限定されますが、権利侵害責任法第七章は医療に関する一般的な権利侵害責任を定めています。

患者が診療活動中に損害を受け、医療機関及びその医療従事者に過失があった場合、医療機関が賠償責任を負います。ここの「医療従事者」は、医師のみならず、看護師、助産師、薬剤師、検査技師、保健士、事務管理員などをも含みます。患者が診療活動中に損害を受け、医療機関及びその医療従事者に過失があった場合には、医療機関が賠償責任を負うんですよ(汗)



Q9 医療過誤では、どうしても患者側が専門性や管理されている情報の点で不利だと思うの
  ですが、そこはどのように手当てされていますか?

A9
1(1)「過失」の推定
「過失」の認定について、患者に損害が生じた際、以下の状況のいずれかにあてはまる場合は医療機関に過失があったと推定します。①法律、行政法規、規程及びその他の診療規範に関わる規定に違反していた場合、②紛争に関わる医療記録を隠匿またはその提供を拒絶した場合、③医療記録の偽造、改ざんまたは廃棄処分を行っていた場合。
カルテ見せてください。拒絶したら医療機関に過失があったと推定されますよ。
 (2)訴訟における証明責任の転換
一般に、被害者は、医療機関に賠償責任を要請する際、医療機関または医療従事者の過失を立証しなければなりません。しかし、医療行為は極めて専門性が高い活動です。しかも、カルテなど証拠となるものは全て医療機関や医療従事者が管理しているような状況では、医療知識に乏しい一般人が医療従事者の過失を立証することは困難です。

このように、被害者による医療機関の責任追及が事実上不可能ということになります。そのため、中国の最高人民法院は、医療被害者の保護の観点から、医療事故の訴訟に対して、2004年から「証明責任の転換」を採用しました。すなわち、証明責任を転換し、医療機関や医療従事者側に「過失がなかったことを証明」させ、それを立証できないときに、損害賠償を認めるようにしたわけです。

2 医療機関の賠償責任
医療従事者が診療活動においてその当時の医療水準に相応しい診療義務を十分に果たさず、患者に損害を与えた場合、医療機関は賠償責任を負わなければなりません。ここの賠償主体は、医療従事者個人ではなく、その所属の医療機関です。



Q10 医療機関が免責される場合はありますか?

A10 患者に損害が生じた際、以下の状況のいずれかにあてはまる場合、医療機関は賠償責任を負いません。①患者またはその近親者が、医療機関が診療規範に沿った診療を行うことに対して非協力的であった場合、②医療従事者が危篤状態の患者の救助等の緊急事態において合理的な診療義務をすでに十分に果たしていた場合、③その時の医療水準の限界により、診療が困難であった場合。医療機関が免責されることもあるんだにゃ!え~っ!
ただし、上記の場合、医療機関及びその医療従事者にも過失があれば、相応の賠償責任を負わなければなりません。



Q11 医療従事者には、インフォームドコンセントのような告知義務はありますか?

A11 医療従事者は診療活動の際に患者に対して病状及び医療措置について説明しなければなりません。手術、特殊検査、特殊治療の実施が必要な場合、医療従事者は速やかに患者に医療リスク、代替の治療法等の情況について説明し、かつ書面による同意を得なければなりません。患者に対して説明すべきではない場合は、患者の近親者に対して説明を行い、かつ書面による同意を得なければなりません。
医療従事者が前項の義務を十分に果たさず、患者に損害を与えた場合、医療機関が賠償責任を負います。

ただし、危篤状態の患者の救助等の緊急事態により、患者またはその近親者の意見を得ることができない場合は、医療機関の責任者または医療機関が授権した責任者の許可を経た後、直ちに相応の医療措置を実施することができます。インフォームド・・・それはプラグじゃないですか・・・。



Q12 薬害問題などが発生した場合、賠償請求はどこにできるのでしょうか?

A12 薬害や輸血による損害責任について説明いたしましょう。これは最新の特効薬なのじゃ!薬害の問題など発生しないでしょうね?
薬品、消毒剤、医療機器の欠陥、または不合格の血液の輸血により患者に損害を与えた場合、患者は製造者または血液提供機関に対して賠償を請求することができ、また医療機関に対しても賠償を請求することができます。患者が医療機関に賠償を請求する場合、医療機関は賠償を行った後、責任を負うべき製造者または血液提供機関に対して返還を求める権利を有します。



Q13 カルテの管理と開示について教えてください。

A13 医療機関及びその医療従事者は規定に基づいて入院簿、医療指示書、検査報告、手術及び麻酔記録、病理資料、看護記録、医療費用等の医療記録を記入し、かつ適切に保管しなければなりません。患者が前項に規定する医療記録の閲覧及び複写を要求する場合、医療機関は提供しなければなりません。
これがカルテですか・・・やっぱり記録していなかったんですね。
医療機関及びその医療従事者は患者のプライバシーを保護しなければなりません。患者のプライバシーを漏洩、または患者の同意を得ずに医療記録を公開して患者に損害を与えた場合、権利侵害責任を負わなければなりません。




Q14 その他、どのような規定がありますか?

A14
(1)不必要な検査の禁止
医療機関及びその医療従事者は診療規範に違反した不必要な検査を実施してはなりません。

(2)医療機関及びその医療従事者の保護
医療機関及びその医療従事者の合法的権益は法律による保護を受けます。医療秩序を乱し、医療従事者の業務、生活を妨害するものは、法に基づいて法的責任を負わなければなりません。逃げましたね!!



Q15 医療事故損害の賠償額についてはどう定められていますか?

A15 上述の医療に関する一般的な権利侵害責任のほか、『医療事故処理条例』で、医療事故による損害の責任を定めています。

(1)医療事故の認定
医療事故の認定は『医療事故処理条例』に基づいて医療機関の責任を追及する前提となります。医療事故ではない場合、医療機関はその責任を負いません。医療事故は、地区市級地方の医学会のもとの医療事故鑑定委員会により認定されます。省級地方の医学会のもとの医療事故鑑定委員会は再び認定することができます。

(2)医療事故損害の賠償額
医療事故損害の賠償額を確定するとき、医療事故の等級、医療過失行為が医療事故損害結果に寄与した程度、および医療事故損害結果と患者の事故前の疾病状況との関係を考慮しなければならないという原則に従います。

(3)医療事故損害の賠償項目
医療事故損害の被害者に対する賠償項目には、①医療費、②欠勤給料、③入院食事補助費、④入院付添費、⑤障害生活補助費、⑥障害者補助器具費、⑦葬儀費、⑧被扶養者生活費、⑨通院交通費、⑩宿泊代、⑪慰謝料が含まれます。各項目の計算基準についても明確に規定しています。
また、被害者家族の交通費、欠勤給料、宿泊費についても、損害賠償の項目になります。ただし、人数は2人に限定されます。医療事故の損害賠償をさせていただきますからね!



Q16 中国では現在、環境汚染が進んでいるという報道を目にしますが、
  環境汚染の責任についてはどのように規定されていますか?

A16 近年、中国では急激に進む環境汚染に対して、厳しい規制を行っています。環境汚染の責任については、『森林法』(1979年)、『海洋環境保護法』(1982年)、『草原法』(1985年制定、2002年修正)、『鉱物資源法』(1986年制定、1996年修正)、『土地管理法』(1986年制定、2004年修正)、『環境保護法』(1989年)、『水法』(1991年制定、2002年修正)、『空気汚染防止法』(2000年)などの法律により定められています。土地、森林、草原、水、鉱産物、漁業、野生動植物などの資源を破壊した場合は、関連法の規定に従い法律責任を負うものとします。権利侵害責任法第八章は、環境汚染の責任に対しても、以下のように規定しています。

1 汚染者の権利侵害責任中国の環境汚染の責任についてはこのような規定があります。
国の環境保護・汚染防止の規定に違反して環境を汚染して他者に損害を与えた者は、法により民事責任を負います(『民法通則』124条)。環境汚染による危害をもたらしたものは、危害を排除し、かつ直接損害を受けた組織または個人に対し損害を賠償する責任を負います。(『環境保護法』41条)。権利侵害責任法は「環境汚染により損害が生じた場合、汚染者は権利侵害責任を負わなければなりません。」と定めています(65条)。

これらの規定からみれば、汚染者の権利侵害責任は「無過失責任」の原則を適用するといえます。すなわち、①環境汚染の存在、②損害の存在、③環境汚染と損害の因果関係の三つの要件が満たされると、汚染者はその責任を負わなければなりません。ただし、完全に不可抗力の自然災害で、かつ遅滞なく適正な措置を講じても、なお環境汚染による損害を回避することができなかった場合は、責任を免除します。

賠償責任と賠償金額に関する紛争は、当事者の請求に基づき、環境保護行政主管部門またはその他の法律に基づいて環境監督管理権を行使する部門が処理することができます。当事者は処理決定に不服の場合、人民法院に訴訟を起こすことができます。または、当事者は直接人民法院に訴訟を起こすこともできます。

2 証明責任の転換
証明責任について、環境汚染責任の場合には、「証明責任の転換」が採用されています。すなわち、環境汚染により紛争が発生した場合、汚染者は法律の規定する責任を負わなくてよい、または責任が軽減される状況であること及び行為と損害の間に因果関係が存在しないことについて立証する責任を負わなければなりません。

3 共同汚染の場合の責任
二人以上の汚染者が行った環境汚染に対して負う責任の割合は、汚染物の種類、排出量等の要素に基づいて確定します。

4 第三者過失による環境汚染の場合の責任
第三者の過失による環境汚染によって損害が生じた場合、権利被侵害者は汚染者に対して賠償を請求することができ、また第三者に対しても賠償を請求することができます。汚染者は賠償後、第三者に対して返還を求める権利を有します。